新聞掲載記事から転載しました。 日本経済新聞 2001.11.29 30面



「圧巻ハゼの骨酒」

小泉 武夫さん(東京農業大学教授)


 ハゼ(鯊)という魚がこれほどまでに美味な魚であったとは、正直言ってこの味覚人飛行物体、知りませんでした。長い間、知らなかったではすまないのでしょうが、ハゼ殿、なにとぞお許しを。
 さて、仙台市に荒浜というところがあって、そこには江戸時代に築かれた運河がそのまま残されており、太平洋まで続いている。その運河に体長十五センチから二十センチぐらいのハゼが生息していて、昔から仙台の人たちは冬の味覚として重宝してきた。一般的には焼いてから干して何匹も連ねてつるし、正月の雑煮用のだしを取るのに使っているという。その荒浜ではしりのハゼを賞味したのであるが、淡泊で上品な味には、いささかカルチャーショックを受けたほどであった。まず薄造りで味わったが、これは実に上品な甘みがあり、耽美(たんぴ)なほどのうまみがあった。歯ごたえもコリコリ、シコシコとして、かめばかむほどうまみがチュルリチユルリと出てきた。まさに妙味必淡の味わいであった。
 次にてんぷらで賞味した。キス(鱚)に味が似ているが、キスよりも味が豊かで、ハゼの身が、油で揚げられた衣の香ばしいにおいとよく似合って絶妙であった。これを煮て、炊きたての丼飯(どんぶりめし)の上に乗せて天丼にでもしたらば、きっと頭が真っ白になってしまうほど美味であろう。これはそのうちにぜひ食ってみたい。
 圧巻はハゼの骨酒(こつざけ)であった。干したものを焼いて、それを丼に二匹入れ、熱々の日本酒を上からドクドクと注いで飲むのであったが、この酒には今生無比のうまみが付き、それが上品な甘みを伴ったうまみになるものだからすごい。ゼラチンが多いせいか、丼に二度三度と酒を注いでもまだまだうまみと甘みが付いてきた。いやはやハゼには大いに勉強されられた。




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