新聞掲載記事から転載しました。 日本経済新聞 2001.11.22 30面



「エビチリの誘惑」
小泉 武夫さん(東京農業大学教授)

わが厨房「食魔亭」では、時々招待する客のリクエストに応じて一品料理もあつらえることがある。先日は「エビのチリソース砂(いた)めが食いてえ」なんて言う中華料理好きがいたので、特別に作ってやった。
用いたエビは中型から大型の大正エビで、頭も殻も付けたまま高温の油でさっと揚げ、いったん引き上げてさらに油温を上げてから再びさっと揚げた。この料理の大切なところは殻を付けておくことで、こうしておくとうまみが外に逃げぬばかりか、揚げた殻の香ばしさが素晴らしいからだ。
肝心のソースと香辛料であるが、まず油を敷いた中華鍋に長ネギ、ショウガ、ニンニクのみじん切りを各大さじ一ずつ入れて妙め、そこに豆板醤(トウバンジャン)、紹興酒、日本酒(各大さじ一)、トマトケチャップ(大さじ四)、砂糖とかたくり粉(各小さじ一)、水(大さじ三)の合わせ調味料を加えて、煮立ったらば先に揚げておいたエビを加え、よくからめ合わせて出来上がりだ。
さて、いよいよ至福町通りの食事である。その時は中、大型の大正エビを三十本ぐらい使ったので、その豪華さと彩りは素晴らしかった。ナイフとフォークでグサリと食べるのもよし、我が輩は、両手の指を使って頭部と胴部を引っ張り出して外し、左手に残った頭部に□を付けてチュウチュウと吸い、頭の奥の方からドロドロとしたみそがねっとりと出てきてそれを味わうのが好きだ。その頭はかみ砕いて美味液を味わい、ペッと殻は吐き出して捨てる。次に右手の胴の部分は殻ごとしゃぶって身を食べ、殻はきれいになってもう味がしなくなったところで捨てる。
こうしてエビをすべて平らげてから、残ったソースは飯の上にぶっかけて食うのである。これぞ男の料理の決定版よ。




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