新聞掲載記事から転載しました。 日本経済新聞 2001.10.04



「好物の島ラッキョウ」
小泉 武夫さん(東京農業大学教授)

南国沖縄の食材やその味覚は印象的なものが多く、数えてもきりがない。その中で私がとりわけ大好物にしているものが「島ラッキョウ」である。小粒なラッキョウだが、風味は実に細やかで、辛みも少なく、生のまま食べられる。
このラッキョウは沖縄本島でも離島でもよく食べられているので、ス,パーマーケットや野菜店、道の駅のようなところでも大概は売られている。結構値段が高いので、そうバリバリとは食べられないが、あの上品な味と葷香(くんこう)を味わえるのであれば、割高感はそう気にならない。
ある時、土産にと思い、皮をむいた島ラッキョウを一山(五目グラム)買い、ビニールの袋に入れて手荷物のまま那覇発東京・羽田行きの飛行機内に持ち込んだ。すると、その島ラッキョウから強烈なにおいが漏れ出し、周辺に漂い始めたのであった。
何せ機内というのは外部とは完全密閉された空間であるので、一カ所で漂ったにおいは機内中に広がっていく。私の周辺の人が臭い、臭いと言って周りを見たので、私も一緒に迷惑顔をしてキョロキョロと周りを見る演技をしたのであった。さて、沖縄の島ラッキョウの食い方の絶頂は、何と言っても皮をむいたものを大きめの平皿に盛り、削ったかつお節を上からまいたものである。それを小皿に取り、上から醤油(しょうゆ)をたらし、あとはムシャムシャバリバリと食う。一度に数個を口に入れ、かむとカリカリと音を立ててつぶれていき、中から島ラッキョウ特有の甘みと実に上品な辛みが出てきて、そこにかつお節と醤油からの濃いうまみが重層する。鼻からは島ラッキョウの持つまろやかな葷香とかつお節の薫香とが入り込んできて、ああどうにも止まらないといった調子で、泡盛はコップ三杯、島ラッキョウは大ざら山盛り一.杯がたちまち空になるのであった。




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