新聞掲載記事から転載しました。 日本経済新聞 2001.09.06



「ナスは飯の友」
小泉 武夫さん(東京農業大学教授)

ヘタを取ったナス(茄)を二つに割り、皮の表面に何本かの線を包丁で入れてから、それを油を敷いたフライパンで焼く。こんがりと焼き上がったナスを皿に取り、その上におろしショウガを乗せ、そこに醤油(しょうゆ)をたらす。別にご飯茶わんに炊きたての飯を盛り、その焼きナスをおかずに飯を食らうのである。するとシンプル・イズ・ベスト。実に美味だ。
焼いたナスは淡味なのだけれども、油のこく味でぐっと奥味が広がり、たらした醤油も油とショウガでまったく別種の重厚な味を持つ。それらが熱い飯とともに口の中で融合し合うのだからたまりません。飯から出てきた上品な甘み、そこに油まみれの醤油のうまさ、さらにショウガのピリ辛さが複雑に交錯して、正直言って頭の中が真っ白くなるぐらい美味になるのである。ナスの油焼きぐらいで、瞬時に食のエクスタシーを迎えられるなんて、ほんとに私はお安くできてますなあ。
ナスの料理で飯を食い、その妙味から舌の恍惚(こうこつ)、味覚の法悦を味わえたのは「ナスのみそ妙(いた)め」の時も同じであった。
今述べた油の焼きナスをフライパンで作り、そこにみそと砂糖を加え、少量の酒とみりんも加えて、やや甘めに仕上げたものである。どんぶりに熱い飯を盛り、その上からナスのみそ妙めをぶっかけ、さらにやや多めに甘味トウガラシを振って食う。この場合はみそ汁よりも熱いお茶がいい。ナスと油とみその濃味に、飯と調味料との甘みが一体となり、そこにあのピリ辛が舞うものだから食欲は一段と奮い起こる。こうなると舌にかかったパワーは百万馬力。どうにも止まらない。こうして、またもや私はこれまたナスのぷっかけどんぷりだけで忘我垂涎(すいぜん)の世界に没入することができたのであった。




[ BACK ]

 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送